去年の「定例会[15/12/08]」にて、見た事が無い変な形状のATI系ビデオカードを発見したので迷わずゲット。HWINFOにてRADEON X300 SE(128MB)と判定されたが、型番をネット検索したところDELLのPCに付いていたカードらしい。このカードもMS-8964と同じく骨皮まで切りつめたOEM用のカードである。非常に興味深いのでちょっと見てみる。


ms_v025
 型番がMS-V025(Ver1.0)ということでMSI製であろう。但し形状から言ってもDELL専用カードだと思われ、MSIに同形状または同型番の製品は無い。メモリが2つしか実装されていないので64ビットのメモリバスと推定できる(だからSE印)。

 基板は寒損等のメモリモジュールでもよく見かけるTRIPOD製で2005年46週製造。分厚くて平坦性は申し分ない。メモリが49週、1117が47週、2.2μHインダクタが44週、ニチコンHC470μFが47週、100μF電解コンが50週製造なので大体のアセンブル時期が判る。少なくとも2005年50週以降の製造である事は確定だ。PCI-EのカードだがASICの中身はAGP版の9600等とほぼ同じだ(ブリッジ接続)。そのためAGP以前しか動かないベンチマークも動作する。


mem_msv025
 メモリは廃肉巣の2.8n(350MHz)品である。64bit接続で2つしか付いていない。メモリバスを減らしてメモリ数を削減するのはコストダウンの常道だが、ここら辺はビデオカードの性能に直接結びつくので出来れば落として欲しくない所だ。実際の動作クロックは後に分るが300MHz(DDR600)である。

 このカードはクーラーにファンは付いていない。つまりファンレスだが、これは静音化も勿論だがコストダウンの効果の方が大きいと思う。つまり手抜き。


vddc_msv025
 VDDCのコントローラは基板裏面にあるRT9232で、このICは設計段階でグラフィックカード用を想定している。スイッチング周波数はRT9232リファレンス回路通りなら200kHzだが未実測だ。スイッチは上側FDS6694+下側FDS6680ASで、この時期のPC用と比べると下側のRdsONがやや高め。

 MS-8964では省略されていたスナバが実装されているのが見える。この辺りは同じメーカーでも製品によって違いが出ているのが面白い。位相補償部分のRCは通常電解コンなので実装されていない。インダクタはMS-8964の1.5μHと違って2.2μHで、これはRV370・RT9232リファレンス設計と同値である。

 出力コンはMS-8964と違いタンタルは無くHC470μF10V×2だけ。ここはDUAL FOOTPRINTなのでSMDタイプも使える。入力コンは思い切ってMLCCオンリーの上にC1002(10μF?)は省略されている。12⇒1.3Vでスイッチング周波数は200kHzだから容量は殆ど必要無い。NX7600GSと同様にこの辺りでコスト低減の努力が図られている。EMI他のお釣りを減らすとしたら、前記のC1002に加えて裏のC2(タンタル)を実装すればよい。

 全体的に見て1.2〜1.3V・10A程度の軽装DC-DCだ。VPU周辺にカネを掛けてもビデオカードとしての性能が上がる訳では無いので、仕様で許される限り部品を切り詰めるのは当然の事と言えよう。OCの場合にはこのマージンの少なさが問題となるわけだが。


q302_msv025
 MVDDCはこのPHD3055で生成されているらしい。このカードで(VDDC以外に)電源と呼ぶに値するのはこれと1117が一つあるばかり。他の雑多な電源は全て流用若しくはシャントレギュレータだけで生成されている。小電流だから可能なのだろうが、格上のビデオカードやマザーボードの事を考えるとシンプルさに驚いたり呆れたり。ちなみに右に見える緑色のシールが貼ってあるICがファームウェア(含BIOS)ROMである。右にある抵抗が以前書いたRV370のSTRAPだ。


ura_msv025
 例によってEMI防止フィルタ・ESD保護ダイオード(基板裏)は全省略。もうアナログは使うなという事か(^^; アナログ主体のHSDLとしては何とか復活させたい。ファンのコネクタは御覧のように省略されたが、その為の配線は生きているので使おうと思えばいつでも使える。


★主要な空き部品
 ()内の数値は確定している。

=コンデンサ=
C2(PCI-E5V_dc):EMPTY
C5(PCI-E12V_dc):EMPTY
C8(PCI-E5V)_dc:CV-BS 100μF16V
C9(PCI-E12V_dc):EMPTY
C300(MVDDC):EMPTY
C307(MVDDC):HC 470μF10V
C407(R):EMPTY(5pF)
C408(G):EMPTY(5pF)
C409(B):EMPTY(5pF)
C441(VESA5V):EMPTY(68pF)
C1000(VDDC_in):MLCC 22μF
C1001(VDDC_in):MLCC 22μF
C1002(VDDC_in):EMPTY
C1005[MC1005](VDDC_out):HC 470μF10V
C1019[MC1019](VDDC_out):HC 470μF10V

=インダクタ=
L20(VDDC_out):FALCO 2.2μH
L60(R):EMPTY(82nH)
L61(G):EMPTY(82nH)
L62(B):EMPTY(82nH)

=ダイオード=
D51(DDCDATA):EMPTY(BAT54S)
D52(DDCCLK):EMPTY(BAT54S)
D53(HSYNC):EMPTY(BAT54S)
D54(YSYNC):EMPTY(BAT54S)
D55(R):EMPTY(BAT54S)
D56(G):EMPTY(BAT54S)
D57(B):EMPTY(BAT54S)


★動作チェック
gpuz_msv025
 GPU-ZだとMemorySize=32MBと出てしまう。もちろんGPU-Zの間違いで実際は128MBだ。クロックは概ね正確。サブベンダはMSIではなくATIになっている。ATIがDELLから受注してMSIで製造させたカードという事か…めんどくせえな。まあ準純正と呼んでよいのかもしれない。


ccc_msv025
 CCCで見るとちゃんと128MBになっている。"Hyper Memory"って何だっけ?あー、思い出した。PCのメインメモリをビデオRAMの一部に使うというセコイ節約技だ。後のAMDチップセットでIGPに外付けRAMを載せるものが出現したが、あれが性能を上げるための積極的な改良に対し、こちらはコストのためビデオカードの搭載メモリを減らすという消極的な改良だ。同時期のヌビの"Turbo Cache"も同様の技術と言えよう。

http://news.mynavi.jp/news/2005/03/25/003.html
 ビデオメモリをHDDにスワップとかバカ言ってるんですが…ATIの放談(漫談?)に突っ込み役が居なかったのか?筆者がPC・ITジャーナリストならこの辺でもう帰る(^^


★ベンチマーク
 ATIだけでなくPCI-Eのビデオカード中で最低性能ランクに入るカードなので性能には期待できないが、それでもどの程度の性能が出るのかは気になるところだ。当面のライバルはAGPの9550や9600SEあたりか?それらと同等か、相手が128ビットだと負ける可能性も高確率でありそう(^^;

bench_msv025

 予想通りクソ遅さは否めない。特に3DMark2001SEでは「いくらなんでも何か間違えているんじゃないか?」とCPUや設定を何回も見直してしまった。尤もAGPのカードは更にこれより下の環境でもっと上の数値を出しているわけで、やはりこのスコアの低さはX300SEの低性能によるものと言うしかない。

 定格で一通りテストした後でATIToolでOCしてみようと思ったら珍現象発生。MAXコアクロックを自動設定したら、テスト中に定格クロックよりも下に落とし始めたのだ。これって定格が無理し過ぎという事なのだろうか?(^^; メモリも定格より下げていたし、これがこのカード特有の現象なのか調べたい気もする。まあヒートシンクだけでファンも無いから過熱するのかもしれないが、最悪を予想をすれば何処かが劣化しているのかもしれない。そもそもメモリチップは350MHzなんだから落とす事は無いと思うんだけど。


★終わり
 メーカー向け廉価カードは色々と工夫が有るので本当に面白い。コストダウンのためにネジ一本でも減らしていく努力はこれからも欠かせないだろう。


★おまけ
>Radeon X300 Vmod
http://www.overclock.net/t/1441314/radeon-x300-vmod
 昔の記事だけど、このカードを改造しようとしている人が居て驚いた。世界は広いな大きいな〜。